2011年3月21日月曜日

ロック史上最大の悲劇


3つの契約、ロック史上最大の悲劇

1955年、エルヴィス・プレスリーの才能に惹かれたトム・パーカー大佐はRCA、CBSコロムビア、アトランティックの3社とサンからの移籍の交渉をした。それは自身がマネジャーになるための手順でもあった。契約金2万ドルがパーカー大佐のボーダーラインだった。
最終的にRCAと2万5千ドルで契約。しかしエルヴィスの感激は、同時にロック史上最大の悲劇と呼ばれること表裏一体だった。

パーカー大佐がRCAと契約と同時にヒル&レインジ出版という音楽出版社との契約を交わしてしまったことで、エルヴィスはこの出版社の管理している曲か、この出版社の抱える作家の曲しか歌えなくなってしまう。エルヴィス・プレスリー出版社も設立されるが事実上このヒル&レインジ出版という音楽出版社の専属アーティストということだ。それ以外の曲を歌おうとする場合、楽曲を提供した作家たちは著作権料の一部をこの出版社に支払うことを要求されることになる。これはヒル&レインジ出版に属さない売れっ子作家には自分の取り分をピンハネされるのと同じ状態を意味する。

これによって徐々にエルヴィスには質のよい作品が提供されなくなってしまい、それはエルヴィスの才能を凍結することになってしまった。それはロックンロールの発展の凍結を意味した。ロックンロール史上最大の悲劇と呼ばれる由縁だ。

この著作権料の問題は<ハウンドドッグ><監獄ロック><ラヴィング・ユー><やさしくしてね>などのリーバー&ストウラーや<恋にしびれて><冷たくしないで><心の届かぬラヴレター>のブラックウェルのような素晴らしい楽曲を作れる人に対しても同じく適用された。
エルヴィスがこの事実を知ったとき、エルヴィスは愕然とし、優秀な作家たちにそんな要求をするのは中止しろと言ったという。

エルヴィス・プレスリーが絶頂期の場合は著作権料を分け合ってもメリットも大きいものであったにしても、ビートルズが全米を席巻した後、本来ならより素晴らしい楽曲を獲得することが必要であったにもかかわらず、逆に急速に悪化したのは、売り上げが低下する分、さらにコストダウンを求めて売れない作家のものを歌わせたのが原因だろう。ビートルズやストーンズらが人気を呼んでいても、エルヴィスはやはりアメリカの大スターであってエルヴィスであれば売れるという現象は続いた。その喜ぶべきことが、悲劇的だった。才能はより封印され、エルヴィスのキャリアに大きな傷跡を残した。

もうひとつが映画会社との長期契約。ここにも同じような原理が働いた。マネジャー、トム・パーカー大佐のこれまた光と影である。



エルヴィス・プレスリーの光と影を語った書物や情報がたくさんあるなかで、ひどい中傷に満ちたものも多い。その原因を作っているのは実はエルヴィス本人の問題というより環境が原因のものだと言える。

エルヴィス以前にエルヴィスはない。それはこれだけのスターをどう処遇すればいいのかというモデルがないという意味だ。
エルヴィスの周辺に集まった誰が、ロックンロールのような風変わりな音楽が脈々と続くことを予測しただろうか?
エルヴィスは自分の環境が作られていた時、この世界のことは何も知らなかった段階にあった。それを弱冠21歳の田舎からやってきた青年に考えろと言っても酷な話ではないか。

一体誰がそんな計算ができるというのだ。ましてエルヴィスはアーティストであってビジネスマンではない。会社勤めのサラリーの計算は出来ても、アルバイトで稼ぐ金の計算は出来ても、スーパースターの計算は出来なかったし、なによりこの時点で自分が世紀のスーパースターになれると想像もしなかっただろう。

おかげでエルヴィス・プレスリー以降に登場したヒーローたちはエルヴィス・プレスリーの光と影をモデルとして考えることが可能になった。